野菜の苗の重要性「苗半作」
農業の世界では昔から「苗半作」という言葉が言い伝えられてきました。
「苗半作」とは「苗代半作」とも呼ばれ、苗の出来具合で作柄の半分は決まる、良い苗を作れば半分は成功したようなものという意味です。
「苗半作」はとりわけ米を作る稲作農家の間で良くいわれてきましたが、野菜を作る農家でも更には家庭菜園の場合でも当てはまります。
家庭菜園では規模も小さく扱う苗の数も少ないかと思われますが、それだけに一つ一つの苗の重要性も高まります。
1種類の野菜を少数の苗で栽培する事もあり、場合によっては1つの苗だけで1種類の野菜を育てる事もあります。
その場合はその1つの苗の出来具合が悪ければ、その野菜の出来具合がすべて悪くなる事にもなりかねません。
家庭菜園の場合では規模が小さいので種をまいて大量の苗を作るよりも少数の苗を購入する場合が多いかと思いますので、苗を購入する時には良い苗を選ぶ事が大切です。
以下に苗の良し悪しの条件を述べてみましょう。
良い苗の条件
- 病気にかかっていない
- 害虫被害がない
- 葉に厚みがある
- 葉の色が濃い緑色
- 1枚1枚の葉が大きい
- 節間が詰まっている
- 茎が太い
- 徒長していない
- 最初に出た一番下の葉、子葉が残っている
- ポットの下から白い根が見える
悪い苗の条件
- 病気にかかっている
- 害虫被害がある又は被害の跡がある
- 葉の色が薄い
- 節間が長い
- 茎が長い
- 徒長している
- 子葉がないか黄色に変色又は枯れている
- ポットの下から見える根が黄色又は茶色
苗の購入時期
苗を購入するに当たって上記の条件も大事なのですが、購入する時期も大切です。
すなわち、苗を購入する時期を間違えては良い苗は手に入りませんし、最悪の場合は苗自体が手に入りません。
野菜の種ならばまず売り切れているという事はないでしょうが、苗の場合はそれぞれの野菜ごとに市場に出回る時期は異なります。
春野菜、夏野菜、秋野菜、冬野菜という言葉がある様に、野菜の収穫をするにはいつ頃苗を植えるか把握しておき、いつ頃苗が出回るか知っておく必要があります。
苗は通常種苗店やホームセンターなどで販売されていますが、大抵の場合はそれぞれの野菜苗の植え付け適期より早めに販売されています。
これはもちろん商売の為という事もありますが、購入者によっては温室やトンネル、マルチを使った早期栽培をする場合もあるからです。
一例を挙げれば、じゃがいもは苗ではなく種芋を植え付けるのですが、種芋は植え付け時期よりもはるかに早い1月から2月頃にはホームセンターで販売されていたりします。
じゃがいもは温暖地では芽が出た時に遅霜に当たらない様に3月頃植え付けるのが通常なのですが、植え付ける場合は1月は当然ながら2月でもかなり早いです。
普通なら苗は植え付け直前に購入するのですが、じゃがいもは種芋を植え付けるので常温でも1カ月位は平気で保存できます。
ですから、2月に購入して保存しておき、2月下旬から3月中に植え付ければ十分間に合います。
早めに購入しておかないとなくなる事もあり、実際「ふじやま」さんは3月中旬に買いに行ったらある店は売り切れで、もう1店はほとんど売り切れてしまい、メークインの種芋がわずかしか残っていませんでした。
その時は本当はメークインと男爵やきたあかりを買いたかったのですが、売り切れなのでメークインだけを購入して帰った苦い経験があります。
又、種芋ではなくてピーマン、ナス、トマトなどの夏野菜の苗の場合でも時期を間違えれば手に入らない事もあります。
これら夏野菜の苗は夏に収穫できる様に春に植え付けしますが、具体的には温暖地では4~5月が適期ではないでしょうか。
苗はじゃがいもの種芋が品切れになる3月頃から出始めて、5月に入れば販売量も品揃えも一段落します。
「ふじやま」さんの場合は時間の都合もあって毎年ゴールデンウィークを目安にこれら夏野菜の苗を植え付けますが、この時が市場に出回る苗の数も種類も最も多いと思われます。
ゴールデンウィークを境に徐々に苗の種類も数も減少し始め、6月に入れば種苗店やホームセンターの苗売り場は随分縮小した状態になります。
苗の植え付け方法
野菜苗を畑やプランターに植え付ける事を定植と呼びます。
苗の定植にはいくつかのコツがあり、定植方法を間違えるとせっかくの良い苗が台無しになってしまいます。
「苗半作」と苗の重要性は前述の通りですが、その苗の生育を最大限生かすには適切な植え方をする必要があります。
まずは苗を植え付けるには植付けの時期や日を間違えない様にします。
苗の植え付けにはそれぞれの野菜ごとに適期があり、早くても遅くてもいけません。
例えば、ナス、トマト、ピーマンなどの夏野菜は3月頃から苗が出始めますが、早く売っているからといってすぐに購入して植え付ければ、霜に当たったり寒さで生育に障害が出たりします。
温室、トンネル、マルチなど寒さ対策をしていれば別ですが、普通に露地栽培する場合はこれら夏野菜の苗は4月~5月が植え付け適期です。
植付けの適期を守ることに加えて、植付けの日時を選ぶ事も重要です。
野菜苗は植物としての初期の生育段階で人間でいえばいわば赤ちゃんか幼児みたいなものです。
急激な温度変化、強風、乾燥、強い日差しなど露地の厳しい環境にはまだ弱く、苗の成長につれて環境に対する耐性がついてきます。
特に植え付け直後はまだ根がしっかりと土壌に根付いていない、すなわち活着していないので、できる限り環境変化の負担を少なくして植え付けるようにします。
ですから、苗を植え付ける際はできる限り日差しの強い晴天を避け、高温の日中を避ける様にします。
苗が根付いてないうちに晴天の強い日差しや高温に当たれば苗にはとてつもない負担になります。
晴天ではなく曇りや小雨くらいの日に植え付ければ苗への負担も少なくなります。
更に、風が強いとまだ小さな苗は茎が細くて弱いので折れてしまう事もあるので避けた方が良いです。
さて、植付けの時期と日時を選んだ上で、実際に植え付けていきますが、植え付けのポイントは苗を傷つけない様にする事です。
ポット苗の場合はまず苗をポットから取り出しますが、取り出す時は苗の下部の主茎を指で挟んで手全体で覆うようにし、上下を裏返して逆さまにする事で根鉢をポットから取り出せます。
一方、苗を植え付ける穴はあらかじめ苗の根鉢の大きさより大きめに掘っておき、穴の底にたっぷりの水を注ぎます。
水が引けたら取り出した苗を穴に入れ、苗の土の上部と周りの土の高さが同じくらいになる様に調整します。
根鉢と周囲の土の隙間がなくなる様に土寄せし、軽く手の平で押さえつけます。
根鉢の高さは低すぎると水が溜まって苗が傷む原因になり、高すぎると乾燥してしまうので注意が必要ですが、接木苗の場合は接いである部分が地上に出ている様にする必要があります。
接木部分が土の中に入っていると接木の上部分の穂木から根が出てしまい、病虫害や連作障害に強いとされる台木の根が育ちません。
そして、植付け後は苗の周りにも水やりをしますが、根が活着するまでは乾燥に注意して水やりを怠らない様にします。
関連動画‐苗の植え付け方
自根苗と接木苗
自根苗とはある品種の野菜を種から育てた苗の事で自身の根から養分を吸収して成長します。
一方、接木苗とは根の部分である台木と実がなる葉と茎がある上部の穂木がそれぞれ異なる2種類の品種で1本の苗を形成しています。
これは普通は自然ではあり得ないのですが、品種改良と同じ考えで、病気や連作障害に強い品種を下部の台木とし、味も良く収量も多い品種を上部の穂木として2種類の品種を組み合わせる事で両者の長所を兼ね備えるというわけです。
接木苗はよく見るとポット苗の土からすぐ上の茎の部分に接ぎ合わせた跡があり、これは育苗業者が2つの品種を切り離して接合した証です。
プロの農家ならば自分で接木苗を作る事もありますが、家庭菜園レベルではなかなかそこまでする方はいません。
ある程度の知識や経験があればトライしてみるのもありだとは思いますが、ホームセンターでは普通に接木苗を販売していますので、そちらを購入した方が手間はかかりません。
接木苗は2種類の品種のいいとこどりなので当然ながら自根苗の品種よりも優れている点が多いです。
自根苗に比べ、接木苗は病気にかかりにくく、害虫にも強く、耐寒性があったり、連作障害に強い上に味や収量が多いといった特徴があります。
例えば、きゅうりの接木苗は台木にカボチャの苗を使っていたり、スイカにはつる割れ病といった連作障害に強いユウガオやカボチャの台木を使用していたりします。
毎年同じ野菜であるきゅうりやスイカを同じ場所で作っていたとしても、接木苗を使用していれば連作障害が出る心配も少なく栽培できるというわけです。
これが自根苗の場合ですと連作障害を回避する為には毎年栽培場所を変える輪作が必要になりますが、家庭菜園であまりスペースがない場合にはなかなか難しい場合があります。
そんな時に接木苗ならば同じ場所に同じ野菜を連作できるというわけです。
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